THE DIRTY DOZEN BRASS BAND - WHAT'S GOING ON

「What's Going On」から35年、カトリナから1年‥

Gregory Davis (Trumpet & Vocals), Roger Lewis (Baritone & Soprano Sax), Kevin Harris (Tenor Sax), Efrem Towns (Trumpet, Fluglehorn), Kirk Joseph (Sousaphone), Terence Higgins (Drums), Jamie Mclean (Guitar), Revert Andrews (Trombone)

1971年のアメリカ。戦争、貧困、環境危機、人種社会摩擦が渦巻く世界で、Marvin Gayeは天を見上げて問いかけた。「What's Going On?」(一体何が起こっているんだ?)不確実な世界へ投げかけられた疑問‥それを元にGayeは、その輝かしい音楽キャリアの中でも並ぶ物がないほどの名作アルバムを作り上げた。

2006年、あの時と同じ疑問が今までにない強さで投げかけられている。The Dirty Dozen Brass Bandは30年以上に渡って、New Orleans音楽とそこから境界を越えた音楽の指導者として、画期的な活動を行ってきている。今、彼らはMarvin Gayeの感性を借りて、彼らの音楽キャリアに王冠として君臨すべきアルバムを発表した。

激動するインストルメンタル曲に加えて、魂を絞り出すようなボーカルナンバーの数々。(Chuck D, Bettye LaVetter, G.Love, Ivan Neville, Guru)The Dirty Dozenは、Marvin Gayeの「What's Going On」の曲を、彼ら独特の音楽言語に訳して表現している。彼らの録音には、カトリナによる洪水の惨事と自らの家と共同体を失った経験が、強い感情となって吹き込まれている。

8月29日、Shout! Factoryからリリースされる「What's Going On」は、New Orleansのカトリナ被災の一周年に当てられている。

「あのハリケーンで引き起こされたすべての事を考えると、これは必然的な企画なんだ」トランペットのGregory Davisは言う。Gregoryとともに発足メンバーのRoger Lewis(バリトン、ソプラノサックス)、Kevin Harris(テナーサックス)、Efrem Towns(トランペット、フリューゲルホーン)らがThe Dirty Dozenの中心メンバー。「でもそれだけじゃない。今『一体どうなっているんだ?』と世界に問う事自体が必要なんだ。9/11で何が起こったのか?津波は?イラクとアフガニスタンでの地響きは?そしてこの『戦争』と呼ばれている物は?本当に一体何が起こっているんだ?」

「ほんとにタイムリーな疑問だよ」Kevin Harris が付け加える。「一体全体、どうなっているんだ?すべてが不気味だ。人間同士が噛み付き合うだけでも最悪なのに、津波やハリケーンやらで自然までもが何千もの人を飲み込んでる。なんだかおかしくなって来ている。」

このアイデアは、バンドメンバーがShawn Amos(Shout! Factory重役、プロディーサー)とアルバムの構想を話し合っていた時に生まれた。

「お互いの事を良く知っておこうと思って、しばらく一緒に過ごしていたんだ。」Amosは言う。「新譜はどんなものにしようかと話し合っていたんだが、ある日、会話がカトリナの事になった。カトリナの被害を実際に経験した人たちとゆっくり時間を過ごすのは初めての事だったから、彼らの体験談を聞いて震えが来たよ。みんな家を無くし、思い出も無くした。話しながらですらメンバーの一人は携帯で保険会社とやり取りしていた。みなNew Orleansに起こった事、そして成されていない事に対して、怒りを隠せないでいる。当たり前だよ。それについてみんなで語り合った。話は戦争と政治に及んだ。その時、Marvin Gayeのアルバムをやるっていうのはどうだろう?と切り出したんだ。」

The Dirty Dozenは今まで、New Orleans伝統ジャズとモダンジャズの融合を、画期的な手法で演奏し、いくつもの音楽的チャレンジを乗り越えて来た。今までに共に録音したアーティストは、Dizzy Gillespie (彼らのヒーローそして影響を受けた) からElvis Costellに至るまで幅広い。アルバム「Jelly」では、ジャズの創始者の一人Jelly Roll Mortonの曲を生まれ返らせ、2004年の「Funeral For A Friend」では、Crescent City(New Orleansのニックネーム)のsecond-line band(葬儀のブラスバンド)が演奏する賛美歌とパレードソングを、独自の解釈で演奏している。(このアルバムはDozen創始者の一人、Tuba Fatsの死の直後にリリースされている)

伝統的な耳に馴染んだ曲目を取り入れながら、平行して独創的なオリジナル曲を作り続ける事によって、The Dirty Dozenは、70年代後半結成当時に廃れかけていたNew Orleansブラスバンドの伝統を見事に復活させ、さらにバンド自体の足跡をはっきりと残した。彼らの音楽と活動は、以降個性的な若いブラスバンドたちの開花に多大に貢献している。

The Dirty Dozenは1999年に既に「Back Jump」の中で、Marvin Gayeの曲「Inner City Blues (Make Me Wanna Holler)」をソウルフルなアレンジで演奏している。(今回のアルバムではGuruがひねりの利いたラップをのせている)だが、あのMarvin Gayeの大作を丸ごと全部‥というのは大挑戦だ。

「Marvin Gayeの大ファンなんだ」Townsは言う。「歌詞を聞いてごらんよ。あれは彼がくぐった苦悩の毎日を綴った日記なんだよ。『神の祝福を』『神の慈悲を』Marvinは飛んでもないところに行ってる。史上最高のミュージシャンだよ。Marvinの曲に取り組むっていうだけで、すごい挑戦だ。自分の物にしたいからね。コピーするだけじゃ意味が無いからね。」

アルバムの完成は早かった。

「いままでのアルバムとは違うけれど、自分たちの音はしっかり維持しようと思った。」Lewisは言う。「録音スタジオに入る前に、リハーサルらしいものはしなかった。ガイドラインになる旋律は譜面にあったが、実際の制作はその場で行った。とにかくスタジオ入りして演った。うまく行ったと思うよ。」

だが、実際のアルバム制作の行程は、カトリナ後の状況に大きく影響された。

「全員からのアイデアはすべて記録したんだ。誰の感情も押さえられてしまう事がないように。」Davisは言う。「それにいろいろなことをきちんと記録しておかないと、台無しになる恐れがあった。以前は『今から2、3時間リハだそ』と電話すればすぐ集まれたけれど、今はみんな散り散りだから、リハだけでも『航空券を予約して、全員のスケジュールを調整して』と、まるでツァー日程を組むように大変なんだ。それに音楽に集中するのも容易ではない。ふと気がつくと、いつも水没した自分の家が頭に浮かんできてしまうからね。」

現在、DavisとLewisはカトリナ以前にほとんどのメンバーが住んでいたGentilly地区に戻っている。Harrisは現在Baton Rougeに期間未定で滞在している。Harrisの父は三年前に心臓発作を起こし、以来Harrisは父と暮らしていたが、カトリナの洪水よって彼らの家は再建不可能な損傷を受けた。Townsは現在Northen Virginiaに滞在している。いつNew Orleansに戻れるかは未定だ。

家だけでなく、The Dirty Dozenは多くの物を失った。生活共同体、そして写真、旅行の記念などの大事な物をすべて失った。

「衣類や靴なんかの物質的なものはいいんだ。でも家族の写真アルバムは‥」Lewisは言う。「7歳の娘がいる。自分の子供の時の写真があったのだか、全部失ってしまった。もう娘に見せてやれない。娘の記憶に残るのは、今の、この64歳の老いた父の姿だけになってしまった。」

それでもメンバーたちは信じている。ハリケーンの災害による問題の数々が効果的に提示されれば、もしかすると何かそこからいい事が生まれはしないか?

「カトリナによって、多くの本当はあってはならない社会のゆがみが表に出た。」Townsは言う。「New Orleansは打ち勝つさ。でもこの社会全体の問題は、いままでもあったし、これからも続いていく。カトリナのような大惨事があってやっと、それらが目の前にはっきり現れたんだ。」

これらの感情や背景のすべてが反映して、「What's Going On」は完全にThe Dirty Dozen Brass Bandのものになっている。

「アルバム作成中、僕らは何度も、状況が良くなったり悪くなったり、喜んだり悲しんだりした。」Davisは言う。「『What's Going On』はそれらのすべてさ。」

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